[音楽]

下川みくに「キミノウタ」レビュー / 2012-02-26 (日)

 2004年11月発売のアルバムのレビューを今頃書いているのは間が抜けているのだが、彼女の歌に出会ってから日が浅いのでご勘弁願いたい。だが、今だからこそ言えることもあろうかと思うのでぜひご一読頂きたい。

 まずこのアルバムの第一印象をまとめると、圧倒的なボリューム感、である。以下曲順にみてゆこう。

 1曲目「君に吹く風」。この曲は幻想的に始まり力強く終わる豪華なアレンジになっているが、下川はうまく歌いこなしている。最初は囁くように最後は高らかに、完成度が高い。聞いていてまことに心地よい。アルバムの先頭曲としてはもってこいで、パチっと決まっている。

 2曲目「モノズキ」。岩里祐穂の詞に坂本麗衣が良い曲をつけた。『この宇宙にたった一人のモノズキに出会うために』というすべての人間に共感するテーマを歌ったこの歌のとおり、下川はそのたった一人と出会ったのであろうか。先日の入籍のことを思うと感慨深い。

 3曲目「悲しみに負けないで」。作詞・作曲:下川みくに、である。悪く言えば平凡。しかしこの平明さこそ下川の何よりの魅力である。下川には中島みゆきのような大才は無い。でもだからこそこの歌は身近に感じられる。下川のこの健気さは聴く者の身の丈に合って共振する。

 4曲目「all the way 」。彼女の9枚目のシングル曲からの収録。だけあってこの曲も完成度が高い。冒頭に書いたボリューム感を醸しだす曲である。

 5曲目「遠い星」。作詞・作曲:T2ya 、となっており、下川は作詞に関係していないのだが、彼女の生まれ故郷の静内を歌っており、曲作りにあたってT2yaと下川がどのようなやりとりをしたのか、など想像されて興味深い。静内川って夜景が見られる場所があるのだろうか。行ってみたくなる。

CD Jacket

 6曲目「キミノユメ 〜完全版〜」。約2年前に出したシングル「tomorrow/枯れない花」に収録された「キミノユメ」をリフレインからの歌い出しに変えただけで、歌詞そのものに変更・追加はない。アレンジはギターからピアノ中心に変更されているものの最小限の構成であることに変わりはない。「〜完全版〜」としてあるのはおそらく制作側の都合だと思われる。このアルバムの中で唯一「Studio Live Recording」となっているあたりに下川のこだわりがあるような気がする。

 7曲目「いつでも夢を」。作詞:下川みくに。アーティスト・下川みくにの世界が続く。他の収録がない曲なので貴重な一曲。

 8曲目「Remember」。作詞・作曲:種ともこ。なのだが、「39」「POPCORN」など友情を書いた詞を知っていると下川の持っているものと矛盾がないので自然に受け入れることができる。

 9曲目「Missing」。インパクトの強い「Remember」「KOHAKU」に挟まれて少々印象が薄くなってしまっているのが残念だが、一篇の映画のような歌詞を美しいメロディでしっとりと歌い上げており、味わい深い曲である。

 10曲目「KOHAKU」。シングルバージョンよりも少しビビッドなアレンジになっており、彼女のヴォーカルもその分陰翳の濃さが増している。アルバム中では異色の曲だが、異彩を放っていて好ましい。

 11曲目「それが、愛でしょう」。この曲に関しては説明を要しないだろう。詳しくはこちらをお読み下さい。

 12曲目「あれから〜そして、今〜」。シングルでは未完成感のあったこの曲がこのアルバムで見事な完成をみた。その結果、6:24という長い尺となったが、あまりにも美しくあまりにも切ないので少しも長さを感じさせない。アルバムのフィナーレを飾る名曲となった。

 13曲目「Love Song on The Radio 〜Live in しんドル〜」。ボーナストラックである。おそらくワンテイク編集なしのラフなレコーディングだが、その分現場の楽しさが伝わってきてライブ感がある。まさにボーナストラックとして申し分ない。

総じて、アルバムとして実に佳くできている。幻想的なイントロからキュートな歌声が出てくる「君に吹く風」に始まり、緩急織り交ぜ、自作他作のみくにワールドが展開して、「それが、愛でしょう」から「あれから 〜そして、今〜」で感極まる。その涙を「Love Song on The Radio 〜Live in しんドル〜」で拭うとまた最初から聞きたくなる。下川みくにが好きだからそうなのか、アルバムの出来がいいからそうなのか、もはやよくわからない。

 チェキッ娘から独立した当時の映像などを見ると自分の持ち歌ですら満足に歌えていなかった音痴なアイドルだった下川みくに。その彼女がよくぞここまでのヴォーカリストに成長したものである。言うなれば芋虫が美しい蝶になったわけだが、その蝶もまだ若く瑞々しい。さらに単なるヴォーカリストから作詞へそして作曲へと彼女は成長をやめない。その成長力が漲ったのがこのアルバムである。
 最後に感謝の言葉を述べたい。下川みくにをここまで成長させてくれた皆さん、そして彼女を支え彼女の歌を創りだしてくれている皆さん、ほんとうにありがとう。

 地獄へ持っていく1枚の音楽CDを選べと言われたら私はこの「キミノウタ」を選ぶのである。

(2012.2.26)

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